アメリカでは、臨床心理ドクターが、精神鑑定や心理療法の他に、博士号レベルの免許取得後3年以上立ってからでないと入れない、博士号取得後修士課程で基礎医学と精神科薬学を履修し、実習、全国標準試験、口頭試験などに全て合格すると臨床心理医という免許がとれるという制度が一部でできています。この特別制度については、賛否両論ですが、このような逸話がありました。この制度合法化に反対する精神科学会の代表の精神科医が審議委員会の裁判で、「薬の相互作用による死は、死因の上位であり、薬を処方するということは大変危険なことであるから、医学校に行かない臨床心理ドクターに処方をさせるのはきわめて危険だから絶対反対です。」と意見を述べたところ、裁判長は、「で、今は誰が薬を処方しているのですか?」ときいてその精神科医は絶句してしまったそうです。つまり、「今は誰が死因の上位になるような危ない相互作用の薬を出しているのか?今処方しているのは、精神科医であって、臨床心理ドクターではないので、今の相互作用が死因の上位であるからといって、臨床心理ドクターがそのような処方をするようになるという証拠にはならない。」ということです。
実際には、アメリカ軍内で専門訓練を受けた臨床心理ドクターが精神科薬の処方をするようになって長年がたち、現在でも、臨床心理医による薬の事故は一件も報告されていません。臨床心理医は、心理療法をじっくりと行いながら必要最小限に精神科薬を処方しますので、新しく薬を出すよりも、今まで出されている多量多種の薬を減らして調整していることが多いのです。このことに関しては、親友の臨床心理ドクターも絶対反対という人がいますし、精神科医でも「安易に処方の資格を作ることには反対だが、精神科のことをよく知らないプライマリー・ドクターが精神科薬の8割を処方していて恐ろしい。それよりは、きちんと訓練を受けて優秀な臨床心理ドクターが臨床心理医の免許を取って処方する方が、ずっと安全で効果的だ。」という人も少数ですがいます。私の同僚のドクター・ラーデンはそのように私を全面的に信頼してくれています。カリフォルニアではそのような法律はまだ通っていないので、私がクリニックで直接処方をすることはありませんが、ドクター・ラーデンが合同診療で私の意見を取り入れて処方してくださいます。 このような合同診療は16年間やってきていますが、心理療法とお薬の連携で回復が薬のみやセラピーのみに比べると、患者さんは明確に早く、持続的な効果を得られています。ドクター・ラーデンは「薬は飲まないで済むならそれにこしたことはない。セラピーが最も重要であり、薬は、必要最低限をのんだ方が早く楽に回復する場合にのみ処方する。」という主義です。