広島国際シンポジウム
広島国際会議場で行われた国際シンポジウム「被爆70年~核兵器廃絶と被爆体験の継承を考える」で、基調講演「被爆体験の心的トラウマ~70年間にわたる影響から見た被爆体験」を行いました。
<基調講演概要>
戦後70周年の心理学・精神医学における被爆者心理の系統的研究は、国際文献ではほとんど皆無である。国内の文献でも今日の科学基準に基づいたものはほとんど見当たらない。本講演では、被爆者の多数が苦しんだと思われる心的トラウマとその後遺症PTSDに付いて考察すべき点を提唱する。PTSDはベトナム戦争後本格的に研究され、アメリカの精神科診断基準では1980年に初めて精神科疾患として含まれた。1945年に原爆投下があり、その後ゼロから生活再建を強いられた被爆者は、心の傷に目を向ける余裕もなかっただろうと思われ、治療研究や実践もなかった。これを考察するには、PTSDの研究、豊富なデータのあるホロコーストの生存者の心理研究なども参考にするべきだが、被爆者だけが持つ特有な要素を十分考慮しなければ、真の意味での被爆者心理理解にはつながらない。
また、長年にわたる放射能の恐怖、深層心理で凍結しているかもしれない心の傷や負の感情のみならず、家族システム理論に基づいた、家族や子孫への心理的影響も見逃してはならない。それらを包括的に捉えた上で、トラウマ被害者が心理回復をする過程でプラスの要素とマイナスの要素に言及し、罪悪感、恨みの心と赦しの心が一般的にどのように影響するかについて説明する。被爆者・戦争孤児の心理回復の事例に付いても述べる。
講演ではトラウマとPTSDについての正しい理解を促すべく説明をし、心理的回復に必要な要素に付いても述べました。
被爆者心理研究のチャレンジは、被爆者の高齢化や生存者の減少に加えて以下の5点の被爆体験のトラウマとしての特殊さがあげられます。
1.瞬時に近い大殺戮
2.史上初めての核兵器
3.不確定要素、予想不能な状況
4.極度に残酷な情景を何万人単位以上が体験かつ目撃
5.長期にわたる見えない放射能の恐怖を回避できない
6.人間性のニーズの最底辺から長期再建 (が必要であったため、こころのトラウマにまで被爆者本人や臨床家・研究者も気が回らなかったであろう)
また、被爆二世・三世、その後の子孫への家族システムからの影響に付いても触れました。
【前広島平和文化センター理事長のスティーブン リーパー氏と】